《From Workshop》
このモデルは"『ライブ・エイド』が開催された1985年頃のレッド・スペシャルを再現する"という明確なエイジド・テーマを持っています。
1985年は、クイーンの歴史の中でも象徴的な年であると同時に、レッド・スペシャルという楽器にとっても、経年劣化による大修復が行われる以前の“ひとつの完成形”とも言える瞬間でした。
通常の塗装とは異なり、Agedを前提とした最適な厚みで仕上げたのちに、組み上げながらエイジド加工を施していきます。
塗装やピックガードの劣化の再現には加熱/冷却という方法のほか、傷付けと磨き上げを繰り返すことで長年の使用感を再現しています。
そのほかの傷、色剥け、打痕など、その全てを手作業によって行なっています。
▲Kz RS Replica Aged 1985
1985年時点のレッド・スペシャルには、経年による"劣化"というより、相棒として蓄積された"使用感"こそが最大の特徴として現れています。
6ペンスコインによるピッキングダメージや、演奏スタイルに起因する偏った摩耗・打痕箇所など、その一つひとつがブライアン・メイというギタリストの個性を物語っています。
弊社では、映像・雑誌・ムックといった多くの資料に加え、社内で大切に保管してきた秘蔵の写真資料なども含めて、1985年当時のコンディションを徹底的に検証しました。
個々の傷がどのように生まれたのかを読み解く「検証」と、そのダメージをリアルに再現する「加工」、2つのプロセスを通じて完成したのがこのエイジド・モデルです。
■コインによるダメージと特徴
ブライアン・メイはピックの代わりに6ペンスコインを使用しており、その独特な形状や硬さが、他のプレイヤーには見られない特有のダメージをギターに与えています。
こうしたダメージは、以下のような箇所に現れます:
ピックアップの金属カバーの凹みや削れ
指板エンド付近の摩耗
ボディトップ、特にネックポケット左右の削れ
ピックガードの縁や、ピックアップ・サラウンドの独特な擦れ方
これらの傷や摩耗の深さ・角度・形状は、まさにコイン特有のものであり、ブライアンの奏法を物理的に物語るディテールとなっています。
▲ボディトップ
▲ボディバック
▲指板エンドの塗装剥がれ、ネックジョイント両側のダメージ
▲ピックガードエッジのスクラッチ
ブライアンの演奏スタイルには、独特なクセがあります。
彼は常に決まった位置でピッキングするため、その周辺にはさまざまなダメージが集中して現れます。
たとえば、ピックアップ・サラウンドには3つすべてに異なる形状のダメージが見られ、スクラッチは6弦側に強く、1弦側にはほとんど残っていないという特徴があります。
こうした痕跡を再現するために、部位ごとに異なる工具を使い分け、削る・こするなどの地道な手作業を何工程も重ねてエイジド加工を施しました。
大胆さと細心の注意の両方が求められる、緊張感のある作業です。
正面写真では分かりにくいかもしれませんが、ピックガードの縁には自然な丸みをつけ、ピッキングの動きに沿ったスクラッチ傷を再現。
さらに1弦側にはあえて弱めのスクラッチ傷を入れることで、小指が触れてできた擦れや色のくすみも丁寧に仕込んでいます。
▲1弦側のスクラッチとくすみ、ピックアップ・サラウンドのダメージも個々に再現
■ストラップとバックルによるダメージ
ボディバックには、衣装やベルトのバックルによると思われる大きなダメージが印象的に残っており、その形状や色味を丁寧に再現しました。
さらに、ボディバックの6弦側にはよく似た形状のダメージが2本並んでおり、ボディトップにもブリッジからアウトラインにかけて曲線状のダメージが見られます。
これらはいずれも、当時ブライアンが使用していた、ベルトを加工して作られたであろうオリジナル・ストラップの金属パーツ(バックル)が、演奏時・ケースへの収納時に当たって生じたものと推測されます。
▲ストラップの金属パーツによる曲線状のダメージ
▲衣装・バックルとストラップの金属パーツによるダメージ
■スライド・スイッチ付近のマスキング
ダメージではありませんが、スライド・スイッチ付近には黒い四角いテープでマスキングが施されています。
レッド・スペシャルには、かつてごく短期間だけ内蔵ファズが搭載されており、その際にピックガードにスイッチ用の穴が開けられました。
ファズ回路の撤去後、この穴は赤い丸いシールなどで塞がれていたこともありましたが、1985年当時には黒く四角いテープが貼られていたことが確認されています。
この黒く四角いテープについても、厚み・材質・断面から露出する白い層の質感まで忠実に再現するため、複数の素材を取り寄せて比較し、最も近いものを厳選しました。
なお、このスイッチ穴は後年の大規模な修復により、ブライアン・メイの象徴とも言えるBMスター・インレイが埋め込まれました。
▲黒く四角いテープ。のちにBMスター・インレイが埋め込まれる
■金属パーツ各種
金属パーツの中で最も特徴的なのは、ブリッジです。
通常のKz RS Replicaと同じOriginal BM Style Bridgeを採用し、資料を参考にしながら両サイドを削り落としました。
6弦側は丸く、1弦側は直線的に大きく削られており、実機に見られる形状を再現しています。
そのほか、コントロールノブやGOTOH社製チューナーにもエイジド加工を施しており、ペグボタンには1985年当時に取り付けられていたタイプに近いものを選定。
同様に質感も丁寧に再現しています。
▲エッジを削り落とし使用感を再現したOriginal BM Style Bridge
■使用感の再現と実用性の両立
ボディのトップ、バック、ネック、指板エッジには演奏による摩耗の痕跡が見られ、これらも細部まで丁寧に再現しています。
完成したギターには長年弾き込まれたような“風格”が備わっていますが、あくまで「新品のギター」であることに変わりはありません。
そのため、演奏性を損なうようなダメージはあえて加えていません。
《SPEC》
■Body: Blockboard, Oak, Mahogany Veneer
■Neck: Mahogany (Quartersawn)
■Scale Length: 610mm (24-inch)
■Fretboard: Oak (Black-painted), 7-1/4 inch R
■Body Depth: 40mm
■Neck Grip: Original BM Style Thick Fat Grip
■Nut: Maroon Linen Micarta
■Fret: Jescar FW55090(Zero) / FW47100(1-24)
■Pickups: KGW T-S Aged
■Bridge: Original BM Style Bridge
■Tremolo Unit: Original BM Style Tremolo Unit
■Control Knobs: Original BM Style Control Knobs
■Machine Heads: GOTOH SG381-P7 MG-T
■Controls: Volume x 1, Tone x 1
■Switches: On-Off x 3, Phase x 3
■Color: Original Red Mahogany
■Special: Square Black Tape on Pickguard, Aged Color Arm Tip
価格:税抜 ¥1,320,000 ※2025年6月26日現在